ゼロトラストセキュリティは、概念としては理解しやすいものの、実際の導入となると多くの企業が困難を感じています。本記事では、ゼロトラストの具体的な実装方法と、成功事例を紹介します。
ゼロトラストを実現するには、以下の技術要素が重要です:
a) マイクロセグメンテーション ネットワークを細かく分割し、セグメント間の通信を厳密に制御します。これにより、攻撃者の横方向の移動を防ぎます。
b) 多要素認証(MFA) パスワードだけでなく、生体認証やトークンなど、複数の要素を組み合わせて認証を行います。
c) クラウドアクセスセキュリティブローカー(CASB) クラウドサービスの利用を可視化し、制御します。不正なアクセスや機密データの流出を防ぎます。
d) ネットワークアクセス制御(NAC) デバイスの健全性を確認し、適切なセキュリティ対策が施されていない端末のネットワーク接続を制限します。
e) データ暗号化 保存データと通信データの両方を暗号化し、情報漏洩のリスクを軽減します。
f) セキュリティ情報イベント管理(SIEM) ログを収集・分析し、異常を検知します。AIやマシンラーニングを活用した高度な分析も可能です。
ゼロトラストの実装は、以下のステップで進めるのが効果的です:
Step 1: 資産の可視化 ネットワーク上の全てのデバイス、ユーザー、アプリケーションを特定し、マッピングします。
Step 2: トラフィックフローの分析 データの流れを分析し、正常な通信パターンを把握します。
Step 3: ゼロトラストアーキテクチャの設計 NISTのSP800-207ガイドラインなどを参考に、自社に適したアーキテクチャを設計します。
Step 4: ポリシーの策定 最小権限の原則に基づき、アクセスポリシーを定義します。
Step 5: 段階的な導入 重要度の高い資産から順に、ゼロトラストモデルを適用していきます。
Step 6: 継続的なモニタリングと改善 システムの挙動を常に監視し、ポリシーや設定を最適化します。
a) Google – BeyondCorp Googleは2009年から、BeyondCorpと呼ばれるゼロトラストモデルの導入を開始しました。社内ネットワークと外部ネットワークの区別をなくし、全てのアクセスを同等に扱います。デバイス、ユーザー、コンテキストに基づいて、動的にアクセス制御を行っています。
b) Microsoft – Zero Trust参照アーキテクチャ MicrosoftはAzure ADを中心としたゼロトラスト参照アーキテクチャを公開しています。ID、エンドポイント、アプリケーション、データ、インフラストラクチャ、ネットワークの6つの要素で構成されており、包括的なゼロトラスト環境を実現しています。
c) 金融機関の事例 ある大手銀行は、クラウドサービスの利用拡大に伴い、ゼロトラストモデルを採用しました。CASBの導入により、シャドーITの把握と制御を実現し、コンプライアンスリスクを大幅に低減しました。
d) 製造業の事例 IoTデバイスを多数使用する製造業の企業では、マイクロセグメンテーションを活用してゼロトラストを実現しました。生産ラインごとにネットワークを分離し、不正アクセスによる生産停止のリスクを軽減しています。
e) 中小企業の事例 クラウドサービスを中心に事業を展開する中小企業では、IDaaSとZTNAを組み合わせたゼロトラストモデルを採用しました。低コストで効果的なセキュリティ対策を実現しています。
ゼロトラストの導入は、一朝一夕には実現できません。しかし、適切な計画と段階的なアプローチにより、確実に成果を上げることができます。自社の環境とリスクを十分に分析し、最適なゼロトラストモデルを構築していくことが重要です。