ゼロトラストセキュリティの概念が世界中で注目を集める中、各国政府や企業はそれぞれの方針でゼロトラストの採用を進めています。本記事では、主要国のゼロトラストに関する戦略と、グローバル企業の対応について詳しく解説します。
- 米国の動向
a) 政府の取り組み
- 2021年5月、バイデン大統領が署名した行政命令でゼロトラストの採用を指示
- NIST SP800-207の発行によるゼロトラストアーキテクチャのガイドライン提供
- 連邦政府機関に対するゼロトラスト導入の義務化
b) 民間セクターへの影響
- 防衛産業を中心に、政府調達要件としてのゼロトラスト対応の加速
- シリコンバレー企業によるゼロトラストソリューションの開発・提供
- EUの動向
a) ENISA(欧州ネットワーク情報セキュリティ庁)の取り組み
- ゼロトラストサイバーセキュリティモデルに関するレポートの発行
- EU加盟国へのゼロトラスト採用ガイダンスの提供
b) GDPR(一般データ保護規則)との関連
- データ最小化原則とゼロトラストの親和性
- 越境データ転送規制への対応としてのゼロトラストネットワークアクセス(ZTNA)の活用
- 日本の動向
a) 政府の取り組み
- サイバーセキュリティ戦略(2021年)でのゼロトラストの位置づけ
- デジタル庁によるゼロトラストを前提としたクラウド・バイ・デフォルト原則の推進
b) 産業界の対応
- 重要インフラ事業者を中心としたゼロトラスト導入の加速
- 日本企業によるゼロトラストソリューションの開発・提供
- 中国の動向
a) 政府の方針
- 国家サイバーセキュリティ戦略におけるゼロトラストの言及
- 独自のゼロトラスト標準の開発を推進
b) 技術開発と産業育成
- 国内大手IT企業によるゼロトラストソリューションの開発
- 「新型インフラ」政策の一環としてのゼロトラスト関連投資
- その他の国々の動向
a) イギリス
- 国家サイバーセキュリティセンター(NCSC)によるゼロトラストガイダンスの提供
- 政府機関のデジタル変革におけるゼロトラスト採用
b) オーストラリア
- サイバーセキュリティ戦略2020でのゼロトラストへの言及
- 重要インフラ保護におけるゼロトラストの位置づけ
c) シンガポール
- スマートネーション構想の一環としてのゼロトラスト推進
- 金融セクターでのゼロトラスト採用の加速
- グローバル企業の対応
a) 多国籍企業の課題
- 各国の規制要件に適合したゼロトラスト実装
- グローバルに分散したITインフラの統合管理
- 地域ごとのセキュリティポリシーの調整
b) 対応策
- クラウドベースのゼロトラストプラットフォームの活用
- グローバル・ローカルのバランスを考慮したポリシー設計
- 地域ごとの法規制に対応できる柔軟なアーキテクチャの採用
c) 成功事例
- グローバル金融機関:地域ごとのデータ保護要件に対応したZTNAの導入
- 多国籍製造業:IoTデバイスのセキュリティ強化のためのゼロトラスト適用
- 国際的なテクノロジー企業:リモートワーク環境のセキュリティ向上のためのゼロトラスト採用
- 国際標準化の動向
a) ISO/IEC
- ゼロトラストに関する国際標準の策定作業
- セキュリティアーキテクチャにおけるゼロトラストの位置づけの明確化
b) ITU(国際電気通信連合)
- ゼロトラストネットワークに関する勧告の策定
- 新興国へのゼロトラスト導入支援
c) クラウドセキュリティアライアンス(CSA)
- ゼロトラストのベストプラクティスガイドの公開
- クラウド環境でのゼロトラスト実装ガイダンスの提供
- 今後の展望
a) グローバルな協調の重要性
- サイバーセキュリティにおける国際協力の枠組みでのゼロトラストの位置づけ
- 国境を越えたサイバー攻撃への対応におけるゼロトラストの役割
b) 新興技術との融合
- 5G/6Gネットワークにおけるゼロトラストの適用
- 量子コンピューティング時代に向けたゼロトラストモデルの進化
c) グローバルサプライチェーンセキュリティ
- サプライチェーン全体でのゼロトラスト適用の重要性増大
- 国際的な認証制度の確立の可能性
ゼロトラストセキュリティは、グローバルなデジタル社会における新たな防御の標準として急速に普及しています。各国政府の積極的な推進と、企業の自主的な取り組みが相まって、ゼロトラストの採用は今後さらに加速すると予想されます。
一方で、国ごとの規制環境の違いや、グローバルに展開する企業特有の課題など、克服すべき点も多く存在します。これらの課題に対応しつつ、効果的なゼロトラスト戦略を構築・実装していくことが、今後のグローバルビジネスにおける競争力の鍵となるでしょう。
組織は、自社のグローバル戦略とローカルな要件のバランスを取りながら、柔軟かつ強固なゼロトラストアーキテクチャを構築していく必要があります。また、国際的な標準化の動向にも注目し、将来の変化に備えた対応力を養うことが重要です。
ゼロトラストは、単なるセキュリティモデルを超えて、デジタル時代のビジネス基盤として不可欠な要素となりつつあります。グローバルな視点でゼロトラストを捉え、戦略的に展開していく組織が、これからのデジタル社会でリーダーシップを発揮することになるでしょう。